強意接頭表現「鬼」(例:山形鬼寒かった≒山形すごく寒かった)はだいぶ前から気になっている。
授業では「鬼のように強い→鬼強い」みたいな表現が発端だとすると「鬼かわいい」は…みたいなネタで時々使っている。語誌はどんな感じなんですかね。
基本的には副詞的修飾を行う形容詞に直接前接する例が多く見られることから、接頭辞(語)的な性格を持っているのかと思っていたが、「鬼[頭痛い]」のような例もけっこう見つかる上に内省で聞いてもそこそこ許容されるようなので、「副詞化」しつつあるのかなのかと考えていた。
そこに、さいきん立て続けに2つ気になる用例を耳にしたのでメモしておく。いずれも大学構内で聞こえてきた(おそらく)学生同士の会話。
接頭辞用法
実際に聞いた例は
(1) 鬼スピードで(走った)
のようなものだった。
アクセントが「おにスピ]ード」だったので、「鬼-」の付加によりアクセントが変わっている(アクセント辞典では「スピード」はいわゆる平板型のみ)。これは「さかな/こ-ざ]かな」「にんげん/ま-に]んげん」のような接頭辞の付加によりアクセントの位置が変わる例を想起させる。
上述した形容詞に前接するタイプは位置だけ見ると接頭辞(語)ぽいのだが、形容詞のアクセントを変える例は管見の限り確認できておらず、(少なくとも音韻的には)明らかな接頭辞タイプの存在は興味深い。
「ほど」に前接する用法
実際に聞いた例は
(2) 鬼ほど寒い
のようなもの。これは今まで気付かなかったが検索でも書き誤りではないだろうと思える例がけっこう出てくる。強意表現としての「鬼」じたい分類するなら程度副詞っぽいが、「ほど」がつくタイプは何か異なる特徴を持つのだろうか。ちなみにアクセントは「おに]ほど」等ではなく平板型であった。
追記(2016/11/01)
ついったーで教えていただきました。
@dlit 「鬼」の強意用法に関しては,下記論文の冒頭にそれまで(90年代以降)の辞書的記述のまとめがあります。
— 茂木@主に連絡用 (@tmogi_nichibun) 2016年11月1日
佐々木翔太郎(2010)「「鬼」のイメージと比喩表現について:アンケート調査の分析」『山口国文』33https://t.co/TOaSqVf7w0