dlitの殴り書き

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少年は科学で,少女は魔法でたたかう

 下記の記事のはてブのコメントで複数指摘されている,少年は魔法というより科学やメカといった話についてはジェンダー論の方で言及がありますので,私が出会った記述を紹介しておきます。

anond.hatelabo.jp

『はじめてのジェンダー論』から

 私自身あまり専門というわけではないのですが,言語表現に見られるジェンダーイデオロギーとかに興味のあるゼミ生がけっこういまして,ジェンダー言語学やジェンダー研究についてもある程度文献を読みます。この加藤秀一(2017)『はじめてのジェンダー論』もその過程で知った本です。

はじめてのジェンダー論 (有斐閣ストゥディア)

はじめてのジェンダー論 (有斐閣ストゥディア)

 以下,「第7章 ジェンダーの彼方の国はどこにある メディアと教育」から関連する部分の引用です。

現代の男の子向け番組が伝統的な男らしさのイメージを反復していることがわかります。ただし戦いに使われる武器・兵器は,最先端の科学の成果ではありますが。
 一方,「女の子の国」の代表は,魔法を使える少女のヒロインが活躍する「魔法少女」ものです。物語の骨格としては,逆境に置かれたお姫様が王子様にめぐりあい,試練を超えて結婚にこぎ着けるという「お姫様もの」が主流で,最も有名なものはもちろん「シンデレラ」の物語でしょう。ただし1990年代に大ヒットしたアニメ『美少女戦士セーラームーン』以降のヒロインたちはもはやシンデレラのように受け身ではなく自ら敵と戦います。むしろ,科学技術で武装した「男の子の国」の住人との違いは,非科学的な魔法を駆使することでしょう
(加藤 (2007): 97-98,強調はdlit)

 ジェンダー論になじみのある方なら,男性と「科学」の結びつきについては思い当たるところがあるでしょう。

 このしばらく後に出てくる先行研究の紹介の内容も興味深いのでついでに引用しておきます。

母性やジェンダー役割を明らかに肯定的に描いたアニメを愛好する女の子たちを観察したところ,そこに出てくる赤ちゃんを「かわいい!」と言いながら,ままごと遊びをするときには誰もが子ども役をやりたがり,そうでなければ父親役が人気で,母親役をやりたがる子は一人もいなかったというのです。彼女たちは子どもなりに,メディアによって賛美されるものと現実の厳しさとの違いを認識しているのではないでしょうか。
(加藤 (2007): 99,一部文献情報を省略した)

そんなに単純な話でもない

 このような抜粋で紹介をすると「そんな単純な話なわけないだろう」「チェリーピッキングだ」みたいな反応がありそうです(特に最近のフェミニズムやジェンダー論への風当たりの強さを見ると)。確かにこの本は入門ということもあってかなり端的に書かれているところもあるのですが,この話についてはそんなに単純ではないという指摘もされています。

 また,一つの作品にはさまざまな面があり,必ずしも一つのジェンダー観だけでレッテルを貼ることはできません。(中略)日本の「魔法少女」アニメが世界中の女の子たちのこころをつかんだ最大の理由は,何より女の子が主体的に決断し,戦うということだったはずです。(中略)そうした新たな少女像・少年像を体験した子どもたちは,前の世代よりも,ジェンダーへのとらわれからちょっぴり自由になれているかもしれません。
(加藤 (2007): 99,傍点部分を太字とした)

 この章では他にも,webで定期的に話題になるジェンダーと色の関わり(ピンク問題)や,「将来なりたい職業」の性差などにも触れられています。

 ここでは略したものも多いのですが本全体を通して例もたくさん挙げられており,先行研究やデータもいろいろ具体的に紹介されていますので入門としてはおすすめの1冊ではないかと思います。専門の方,どうでしょうか。