dlitの殴り書き

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現代日本語文法(研究)の入門本をいくつか簡単に紹介

はじめに

 この記事では,現代日本語(主に共通語)の文法研究の新しめの成果が反映された,日本語文法研究の入門・概説本をいくつか簡単に紹介します。
 直接のきっかけは,私が以前書いた金谷武洋氏への批判記事に対して下記のような反応があったことです。

確かに,日本語文法研究にあまりなじみがない人がこういう批判に触れると「じゃあ結局何を読めば良いんだよ」と思ってしまうこともあるでしょう。実際,これまでもそのような反応をいただいたことは何度かあります。
 もう一つのきっかけは,下記の書籍案内を読んだことです。
rikayamashita.hatenablog.com
rikayamashita.hatenablog.com
やはり,こういう情報発信は重要だし,非専門家としてはありたがいなと。
 私自身,以前からできるだけ本を紹介した方が良いのではと考えてそういう記事も書いてきたのですが,
d.hatena.ne.jp
よく考えたら「日本語文法(研究)」を対象にしたものは書いてなかったので,今回メモ書きぐらいのものをまずあげておきます(なのでこちらのブログに書きました)。本当はもっときちんとしたものを書こうと思っていたのですが,それだといつまでたっても公開できなそうなので…
 また,松浦年男さんの下記の言語学書リストも参考にしてみてください。
researchmap.jp

紹介

 いずれの本も日本語文法研究を専門にしている研究者が執筆したもので,この分野の研究成果や蓄積されてきた知見が盛り込まれています。

日本語文法研究の考え方

 日本語文法研究がどういうことをやっているのか,日本語の文法を分析するとはどういうことか,ということについては,井上優『日本語文法のしくみ』が分かりやすく書いています。

日本語文法のしくみ (シリーズ・日本語のしくみを探る)

日本語文法のしくみ (シリーズ・日本語のしくみを探る)

日本語文法の専門的な本を読むといきなり言語現象の分析に入るのでそもそも何をしているのかよく分からないという人に特におすすめです。

日本語文法の各トピック

 品詞,ヴォイス,アスペクト,モダリティといった日本語文法を考える上で重要になる各トピックについて具体的に解説している本としては,加藤重広『日本語文法入門ハンドブック』をおすすめします。

日本語文法 入門ハンドブック

日本語文法 入門ハンドブック

さまざまな話題を取り上げ非常にコンパクトにまとめていますが,コンパクトな分解説が端的でかえって分かりにくかったり,内容が盛りだくさんでつらいということはあるかもしれません。
 もっと各トピックについて詳しく知りたいという方には日本語記述文法研究会(編)『現代日本語文法シリーズ』(全7巻)を,
現代日本語文法1 第1部総論 第2部形態論

現代日本語文法1 第1部総論 第2部形態論

コンパクトなもので他に何か…という方には益岡隆志・田窪行則『基礎日本語文法 改訂版』をおすすめしておきます。
基礎日本語文法・改訂版

基礎日本語文法・改訂版

後者は出版が25年も前の本ですが,基礎的なところに関しては現在でも十分有用だと思います。

学校文法ってどうなの?

 「国語」の授業で出てくる,いわゆる学校文法を軸にしつつ現代の研究成果を反映させた解説書として,山田敏弘『国語教師が知っておきたい日本語文法』という本があります。

国語教師が知っておきたい日本語文法

国語教師が知っておきたい日本語文法

学校文法の用語がたくさん出てくるので嫌いだった人にはつらいかもしれませんが,学校文法の問題点についてもかなり具体的に切り込んでいます。

もうちょっと気軽に読めるものは

 べつに体系的に勉強するというわけではなく,日本語文法ってよく見るといろいろ不思議だなあという体験をしたい方には,森山卓郎『表現を味わうための日本語文法』がおすすめです。

表現を味わうための日本語文法 (もっと知りたい!日本語)

表現を味わうための日本語文法 (もっと知りたい!日本語)

専門用語があまり出てこないので,こういう話題が好きな人は気軽に読み進められるのではないでしょうか。一方で,分析や解説が欲しい人には物足りないかもしれません。

そのほか

主語論

 現代の日本語文法研究で「主語」の扱いがどうなっているのかということについて簡潔に知るには,日本語文法学会(編)『日本語文法事典』の「主語」の項目を読むと良いでしょう。

日本語文法事典

日本語文法事典

この事典は同じ項目について複数の執筆者が別々に記事を書くというおもしろい構成になっていて,「主語」の執筆者は尾上圭介,角田太作,野田尚史の3名です。「主語」のすぐ後は「主題」の項目なので,合わせてどうぞ。
 また,上で紹介した本でも『国語教師が知っておきたい日本語文法』や『表現を味わうための日本語文法』では主語の取り扱いに具体的に言及しています。

三上文法

 三上章の文法論については,結局『現代語法序説』を読むのが一番良いというのが私の考えです。

現代語法序説 (三上章著作集)

現代語法序説 (三上章著作集)

三上の主語・主題論は述語(の活用)の話や文構造論と合わせて理解しないとかえって分かりづらいのではないかと思うからですが,初学者がいきなり読むのはつらいかもしれません。

国文法

 国文法については,以前こんな記事を書きましたが,
d.hatena.ne.jp
ここで紹介した下記の本は,国文法に関する章以外も文法(研究)の良いイントロだと思います。ただちょっと専門的かもしれません。

岩波講座 言語の科学〈5〉文法

岩波講座 言語の科学〈5〉文法

おわりに

 ここで紹介した本はあくまでも入門・概説ですので,細かい議論については省略されているというようなことも珍しくありません。もっと詳しく知りたい方は,それぞれの本の推薦書リスト等を手がかりに読み進めてみてください。
 これでも多すぎるよと思うかもしれませんが,一口に「文法(研究)」といってもいろいろなトピックがあって広大な世界なので,どれか1冊というよりは複数の本を読んだ方が結局理解が進むのではないかと考えています。
 私自身は日本語文法研究の入門書・概説書すべてにきちんと目を通しているわけではありませんので,抜けもいろいろあるかと思います。できれば(特に値段の問題で)新書を1冊ぐらい紹介できれば良かったのですが,今回は見送りました。もっと良い本があるよ,とか,これはどう?,みたいなことがあればぜひご指摘ください。

kindleの翔泳社フェアでグラム・ニュービッグ 他『自然言語処理の基本と技術』が50%オフ 人文系の人にもおすすめ(2/21(水)まで)

 下記の「全点対象翔泳社フェア」でグラム・ニュービッグ・萩原正人・奥野陽著,小町守監修の『自然言語処理の基本と技術』が50%オフになっています。
www.amazon.co.jp
 基本的にはコンピュータやプログラミング関係の本が対象ですが,日本語教育能力検定試験等,日本語教育関連のものも少しありました。
 私は『自然言語処理の基本と技術』の執筆陣を見てすぐ購入を決めたクチですが,(工学系の人はもちらん)どちらかというと人文系の言語研究に興味のある方だけでなく,デジタルヒューマニティーズが存在感を増している今,いろいろな人文系の分野に関わる人にもおすすめの本だと思います。

自然言語処理の基本と技術

自然言語処理の基本と技術

ヴィーガン➜フェミニズムの話でちょっと気になったこと

 そんな大したことではないですし,おそらくすでに指摘され議論もされていることなんだと思うのですが,気になったことについて不明瞭ながら言語化できそうなのでちょっとだけ書いておきます。
 下記の記事はいろいろ文献や具体的な参考情報を紹介していて良い記事だと思います。
davitrice.hatenadiary.jp
 それで,ヴィーガン (vegan)対フェミニズムという構図そのものがなんとなくもやもやしていたのですけれど,たぶんそれは「フェミニズムを標榜することによって新たな課題が投げかけられる」ところに抱いた違和感なのではないかと。
 差別の当事者や人権を侵害されている側がそれを克服しようとするプロセスにおいて(過剰に/不当に)「潔癖さ」や「品行方正であること」を求められてしまう問題についてはよく言及されますし,おそらくその類の話なのではないかと思いますが…
 ヴィーガンの思想自体は女性やフェミニズム的主張を掲げる人をことさらにターゲットにするようなことはないのでしょうけれど,今回の発端になったケースでは「フェミニストだから」課題が投げかけられたわけですよね。
 そのことそのものがまさに不平等の反映なんじゃないかなあということを思ったのでした。